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福井謙一

有機物質の化学反応には謎が多い。

分子の中で化学反応にかかわる場所が、いつも同じであるのはどうしてか、も謎のひとつ。

福井謙一の独創的な理論構築が始まったのは、そこからであった。

彼はベンゼン環の亀の甲が二つくっついたナフタレンで、反応を起こす場所がいつも同じであるのはなぜか、を追求した。

わかってみれば簡単なことであった。偉大な理論とは、そういうものかもしれない。

が、たどり着くまでが大変であった。

手回し計算機で膨大な計算を積み重ねた。よーするに、原子同士の反応は一番外側にある電子が重要な役割をする。

同じことが分子どうしで起こっていて、軌道の特定の場所で反応が起こりやすいというのだ。

中の群れに当たる分子を誘導するのが、たった一人のフロン.ティアのカウボーイであるようなもんだ。

当初は電子に注目していたが、次第に軌道のあり方が大切とわかり、「フロンティア軌道理論」の名が定着。

1952年に米国の『化学物理雑誌』に発表された。

その年、福井は弟子の一人に、フロンティア軌道理論を応用して、発がん機構を解明する課題を与えている。

今日、発がんの問題で遺伝子に作用しやすい活性酸素が注目されているのも、その基礎にフロンティア軌道理論がある。

1965年、米国のウッドワードとホフマンが有機分子の電子軌道の形の相性が、化学反応の起こり方の鍵だという論文を発表した。

それをきっかけに、福井理論がまた注目を集めた。

その前年、軌道の対称性が化学反応を起こすかどうかの決め手になるとの論文を発表し、ウッドワードとホフマンの理論の基礎を作ったからだ。

1981年、福井謙一はホフマンとともにノーベル賞を受けた。

福井謙一は和服が似合った。「古武士」の異名を弟子たちは奉った。

並のメモ魔でなかった。夜中とか未明に発想が浮かぶ。電気をつけたり、起き出したりするだけでは着想が消し飛ぶ。

福井は発想が浮かんだとたんに枕元のメモ用紙をとり、鉛筆ですぐ書きつけた。長年の修練で、暗闇で字を書く手並みは堂に入っていた。

よく、メモをしないでも覚えているような思いつきこそ大切だ、と人はいう。

しかし、福井謙一は、それは大したものではない、メモをしないとすぐに忘れてしまうような着想こそ貴重なのだ、という。感心。

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