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共謀罪を安倍政権が急いだ深層「戦時体制」への恐るべき野望(サンデー毎日 2017年7月9日号)

安倍政権が国民的な批判を押し切って強行採決した共謀罪。人々の会話や内心までもが取り締まりの対象となる正真正絡の悪法だが、これによる監視社
会の形成には、さらに恐ろしい野望がはらまれているとジャーナリストの斎藤貴男氏は言う。

経済とも連動した戦時体制づくりが目指すものとは?

第193回通常国会が閉会した。翌6月19日に官邸で行われた記者会見は、安倍晋三首相の嘘と開き直りの見本市だった。

国会答弁での自らの姿勢が、「結果として、政策論争以外の話を盛り上げてしまった」ので「深く反省して」いると述べた。だが、「印象操作のような議論に対して」が前置きなのだから、それこそ野党を貶めるふ印象操作こそのものだ。

「テロの恐怖」にしても、首相自身がむやみに米国との同化を進めたり、彼に近いメディアが排外的な報道で民心を煽らなかったら、と悔やまれてならない。

数字の上での有効求人倍率が「バブル時代をも上回」ったとして、非正規ないしワーキング・プアの一層の拡大を自画自賛できる神経は尋常なのか。

極め付きが、加計学園疑惑にかかわる妄言だ。「透明で公平、公正なプロセスこそ」が、基岩盤規制を打ち破る大きな力となる」。これぞ国家戦略特区
だ、と。例の獣医学部新設についても、(諮問会議の)民間委員らは「一点の曇りもないと断言されておられ」るという。

私自身に、と胸を張らないところが、彼なりの誠意なのかもしれないけれど。ああ、なのに政治記者たちは実に慎ましやかだった。

質問に立った新聞・テレビなどメディア各社とも型通りのやり取りに終始した。御用ジャーナリストの異名を取る山口敬之氏のレイプも疑惑および官邸筋による揉み消し疑惑を質す気配もない。

菅義偉宣房長官が、己を追及した東京新聞社会部の望月衣塑子記者の身辺調査を警察に指示したとの報(『週刊新潮』6月22日号)が効いているのだろうか。

かくて会期の延長は見送られ、首相をめぐる無数のスキャンダルの国会審議は舞台ごと消滅した。

口封じかどうかは知らないが、生証人である籠池泰典. 森友学園前理事長の逮捕も近いと間く。以上の文脈の中核に、たとえば委員会での審議・採決を省略した掟破りの強行採決で成立した「共謀罪」もあった。

犯罪の実行がなくても、警察にテロ集団租織的犯罪集団と見なされ、何らかの行為をしたと見なされた者は、それだけで投獄か罰金刑に処せられる仕組みだ。

詳しくは本誌の4月30日号に書いたが、要は人々の会話や個々の内面も取り締まりの対象にされるという話である。

ということは、警察はテロに関係あろうとなかろうと、権力やそのスボンサーたちに隷従しない人間やグループを、いつでもどこでも恣意的に逮捕できてしまいかねない。警察も、その上に君臨する勢力も、言わば神様の地位を与えられたことになる。

彼らの強烈になり得るのは、昨年成立した刑事司法改革関連法制が認める司法取引や、権限が拡大された盗聴法(通信傍受法)ばかりではない。

仮面ライダーのオチは「国民総背番号制」

目下のところはまだ署察庁の構想段階とされるDNA型データベースや、信じられないかもしれないが、嫌疑をかけた相手の事務所や自宅に警察が無断で侵入して盗聴器や監視カメラを仕掛けてよいとする「会話傍受」。あるいは全国の津々浦々に張り巡らされた監視カメラ網、これと顔認証、音声認証、しぐさ認証などといったバイオメトリクス(生体認証)を連動させていく計画、携帯電話やスマホのGPS、五税と社会保障の一体改革を掲げて私たち全員に割り当てられた。

12桁のマイクナンバー。最後のは事実上のステコードイグマ(隷属の烙印)番号と言い換えた方が適切だ。

望んで頂戴したのでもない奴隷の刻印を、所有格で呼ばされる筋合いはない。個々の監視ツールを駅、得られた個人情報を名寄せし串刺マイナンパー
にする国民総背番号制度をレールとすると、そのありさまは山手線になぞらえられるだろう。

特撮テレビドラマ『仮面ライダー』の敵役・悪の秘密結社「ショッカー」は、石ノ森章太郎氏の漫画原作では日本国民を総ロボット化する計画を進めたが、その大本は現実の政府がそれ以前に着手し、現在に至った国民総背番号制構想だったというオチになっていたことをご存じか。

ショッカーの首領がライダーに、「だからわれわれがうらまれるのはめいわく千万な話なのだ!うらむのなら日本政府を…そうじぶんらでえらんだ政府なのだからわらじぶん自身を…」と唯うシーンもあった。

石ノ森氏の先駆的な慧眼に脱帽する。私の父は戦後の11年間をシベリアの強制収容所で過ごした。

国に尽くした揚げ句に極寒の地で強制労働に従事させられ、帰国したらしたで祖国の公安警察に死ぬまでつきまとわれた。シベリア帰りはソ連のスパイと見なされていた。

密告が奨励され、当局はそこいら中に密偵を撒き散らすだろう。放置しておいたら仲間同士が信じられなくなる私たちは、やがて東西冷戦時代にしばしば伝えられた秘密警察大国ソ連や東ドイツ、近年なら北朝鮮や中国のイメージにも似た社会の産性を、最先端のハイテク技術でもって飛躍的に高めていくのではなかろうか。

当然のことながら、監視社会は共産主義国の専売特許ではない。戦前戦中の治安維持法体制はもとより、五赤狩り時代、さらには9.11以降の米国、CIAの後ろ盾で樹立されたピノチェト政権下のチリ等々、資本主義国のサンプルもいくらでもある。

暴政に右も左もない。かつ現代日本の監視社会において民衆は、ジョージ・オーウェル『一九八四年』式の「ビッグ・ブラザー」による支配に加え、これに相乗りする民間企業のダイレクト・マーケティングの海に漬からざるを得ないのだ。

まず米国に「愛い奴」と思ってもらう

首相自身の発言や公表されたIT戦略本部の「工程表」によれば、ICチップ内蔵の「マイナンバーカード」には近い将来、公的な健康保険証や運転免許証、パスポートなどは言うに及ばず、Suicaの類いやクレジットカード、病院の診察券、流通系の会員カード、社員証や学生証といった民間のカード類を一体化させる「ワンカード化」が急がれる予定。

近ごろはNHK受信料の徴収やカジノへの入退場にも使おうという方向性も打ち出された。

マイナンバーカードの携帯がなければ一歩も歩けない世の中への予兆である。某大手エレクトロニクスメーカーは、個々の従業員が社内のどの場所で誰と接触したかを瞬時に捕捉できる管理システムを開発し、外販している。

各所各人に取り付けたICチップ同士が一定距離に近づくとセンサーが作動し、その情報が人事部門に送信される。

企業内だけに限定される保証はない。私たち一人ひとりがテレビでいつどの番組を観たのかといった嗜好傾向も、いわゆるIOT(モノのインターネット化)の深化で一元管理され、解析されて、マーケッターたちに供されていく。

便利か便利でないかと問われれば、疑いようもなく便利だ。ただ、それは誰にとってなのか、直接の利益を得ない者が支払わされることになる代償の意味と重さを、今度こそみんなで考え、検証する必要があると叫ばずにはいられないのである。

私は本稿で、監視社会の問題だけを論じたいのではない。安倍政権が今なぜ、こうも共謀罪を急いだのか。

理由はおそらく大きく二つ。ひとつは新自由主義イデオロギーに基づき、連綿と続く構造改革が、現状にも増して階層間格差の拡大を必然とするから。
もうひとつは、もはや多くの人々の共通認識となりつつある、戦時体制の構築だ。

いずれも推進している側の層が、大切なものを片っ端から奪われる層による必死の抵抗に怯えつつ、せせら笑い、あらかじめ排除するためではないのか(複数の拙著およびJ・ヤング著、青木秀男ら訳『排除型社会』洛北出版、2007年など参照) 。

新自由主義は小泉純一郎政権の頃に目立ったが、ここでは現政権の特徴について書く。

安倍氏が戦時体制を志向するのは、①祖父・岸信介元首相が追い求めた大日本帝国の夢よもう一度の悲願‘②対米従属だから。

どちらも的を射ていると思う。一見矛盾するようでいて、だが少し考えれば、そもそも戦前の再現が米国に許されるはずもなく、首相が国内の支持者向けにでもそれらしい立ち居振る舞いをしたければ、まず米国に「愛い奴」と思っていただかなくてはならないということに気付かされる。

それには彼らの戦争に付き合うのが一番だ。私はこれらと同時に、③日本の支配層には彼らなりの、戦争を放棄したくない事情があるという私の取材の成果と実感を、可能な限り多くの人々に訴えたい。

背景には少子高齢化があるのである。少子高齢化で彼らが最も心配するのは、一般の思いとは違って、社会保障の前に、ビッグ・ビジネスの将来だ。労働人口が減れば、当然、内需は縮小する。それでも売り上げ規模の拡大を目指せば外需の開拓以外に道がない道理だから、アベノミクスの成長戦略の柱
には「インフラシステム輸出」が明記されている。

原発などの発電所と電力網、通信網、鉄道、道路、ダム、水道、もっと言えば計画的な都市建設そのものといったインフラストラクチャー(社会資本)の整備が遅れがちな新興成長国群に対して、それぞれのコンサルティングから設計、施工、資材の調達、完成後の運営、メンテナンスに至るまでの大量受注を、「官民一体」の「オールジャパン体制」(大置の公表資料で強調されている形容)によって推進しようとの国策だ。

ビジネスの用心棒として「軍事力強化」

これだけなら、わかる。なるほど経済成長はみんなが幸せになるための有効な手段のひとつだから。だが現政権は、この国策に二つの危険な要素を組み入れた。

「資源権益の獲得」と「在外邦人の安全」だ。インフラシステム輸出で友好関係を築けた相手が地下資源の豊富な国の政府なら、それらを有利な条件で回してもらおう、しかし資源国といえばグローバル・ビジネスと開発独裁社会の紛争が付き物で、丸腰の日本人労働者やビジネスエリートがのこのこ出かけていけば、本物のテロリストらの標的にされかねない。

産業戦士たちを守るためにも、海外で戦える武力が不可欠だ。折しもインフラシステム輸出の国策が本格的に動き出す直前の2013年1月、アルジェリアの天然ガス精製プラントが武装グループに襲撃され、外国人労働者ら約40人(うち10人は日本人)が殺害される事件が発生した。

直後に首相の指示で発足した自民・公明両党のプロジェクトチームで座長を務めた中谷元・衆議院議員(後に防衛相)に、私は取材している。「そうい
うのは米国やフランスでは当たり前」だと、彼は語っていた(詳細は拙著『戦争のできる国へ安倍政権の正体』朝日新書など)。

何のことはない、これは帝国主義ではないか。かつての過剰人口のはけロを口実とした植民地支配が、自由貿易を盾に、過剰資本のはけ口を広げたい非
フォーマル公式な経済支配のモチベーションに置き換えられただけだ。

首相がかねて、「普遍的な価値観を共有する米国とわが国」と強調してきたゆえんである。

まとめると、大日本帝国の創生、米国への積極的な隷従と自衛隊の傭兵化、ビジネスの用心棒としての軍事力強化。

それらゆえの戦時体制であり、反戦機運を抑え込む監視社会、言論統制なのである。こんなことを今さらいくら叫んでみても、かえって読者を萎縮させてしまう結果ばかりが招かれるのかもしれない。

だが、誰もがそんな空気を読む達人のような生き方を目指すようなら、この国の民主主義は完全に命脈を絶たれる。1%の富裕層のために残る99%の人々が命がけで奉仕させられる社会になってしまう。

私はどこまでも、改めて現状を見据え、深く考え直していただくために必要な素材と見方を提供した。人間が人間であるために、最後まで抗おう。


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