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2018 大予測 波乱の年をテーマで見える化

(週刊東洋経済 2017年12月30日)

これまでの働き方は崩壊企業は大変革を迫られる

高齢化する日本の課題とは何か、英国の知性二人が語り合った。

一人は「ライフ・シフト』で人生100年時代の戦略を描き、日本政府にも助言するリンダ・グラットン英ロンドン・ビジネススクール教授。もう一人は西洋の終わりで自由主義社会の危機に警鐘を鳴らす英「エコノミスト」の元編集長、ビル・エモット氏だ。

高齢化が、お二人の著書に共通するテーマです。高齢化について悲観的になるべきでしょうか?

エモット高齢化は財政やおカネの問題だけではない。人生が長くなることで、これまでなかったようなチャンスが出てくる。日本は65歳以上の労働参加率が世界で最も高く、これはポジティプだ。

グラットン100年時代の人生に人々が悲観的になるのは、60歳までは健康でいられたとしても、その先の40年は病気を抱えて生きる、といったイメージを持つから。

でも、それは現実とは違う。長寿化した人生で、もっと多くのことをする機会が与えられている。これが、100年時代におけるライフ・シフトのポイントだ。これまでは、フルタイムで教育を受け、フルタイムで働き、退職してフルタイムの年金生活者になるといった3ステージの人生で問題はなかった。でも、それではもう、うまくいかない。

特に日本のように高齢化が進んだ国では今後、3ステージの人生が急速に崩れていくのを目の当たりにするだろう。今は会社を一度辞めると、再就職はとても難しい。でも、古い3ステージではなく、生涯でより多くのステージを経験することになるマルチステージの時代には、人々は会社を自由に辞めたり、再就職したりすることを望むようになる。企業は柔軟になるべきだ。

しかし、すべてを変える必要はない。日本の終身雇用は大きな財産だ。他国では(短期契約や単発で仕事を請け負う)ギグエコノミーが広がっているが、これを称賛するのは間違っている。

日本は高齢化だけでなく、少子化の問題も抱えています。これらは日本特有の問題ではない。日本が特別なのではなく、最初に経験しているということだ。だから、私たちは日本に注目している。

日本を見ることで、これから他国で起きることが理解しやすくなるからだ。日本の出生率は韓国同様、極めて低い。英国、フランス、スウェーデンなどと比べると、かなり低い数字だ。これには、政策的なインセンティプが大きく関係している。加えて日本では、企業の人事政策が、結婚し子どもを産むことを難しくしている。各種調査などによれば、男女問わず、日本人の多くが結婚し子どもを持ちたいと思っている。

にもかかわらず、なぜ少子化が進み、婚姻率が下がるのか。理由の一つは、終身雇用が崩れてきていることにある。

今や労働人口の4割が非正規雇用だ。パートや派追では家族を持つのは難しい。収入は不安定で、企業研修も受けられない。これが若者の現実であり、大きな負のインセンティプになっている。

同じ結果を得るには変わる必要があるグラットン日本の女性にいま起きていることを理解するには、1950年代の米国が参考になる。

50年代米国の女性の労働参加率は、現在の日本とよく似ているからだ。これに関する多くの研究データが示すのは、働き方が柔軟な職場で働いていた女性は、そうでない会社に勤めていた女性よりも、結婚し子どもを産むケースが多かったということ。また、仕事を続けたいと思いながら仕事を辞めた女性の多くは、夫のサポートがないことが原因で仕事を辞めていた。

いま日本が直面している問題と非常によく似ている。日本の男性は長時問働いていて、ほとんど家事を担っていない。子どもの面倒もあまり見ない。

女性は家庭でサポートされていないから、パートの仕事はできても、キャリアを築くことは難しい。問題は組織だけでなく、家庭でも起きているのだ。
男性従業員は長時間労働で企業にコミットし、一方の企業は終身雇用でそれに応える。それがこれまでの形だった。だが、こういったものは、人口が減る中で生産的な経済を作り出すためにも、変えていかなければならない。

日本企業が抱える問題は、長時間働くというコミットメントによって生産性が上がっているわけではないこと。また、こうしたコミットメントによって、女性の労働参加を阻んでいることだ。

現代の特に知識集約型の仕事においては、生産性と長時間労働の間には特段の相関関係はない。日本的な悪弊を改めれば、問題は解決しますか?

考えてもらいたいのは、高齢化や少子化が進み、中国などとの同際競争が激化する中で、生産性を高めるにはどうすればいいのかということだ。これまでと同じ結果を得るためには、日本企業は変わらなければならない。

これは極めて大事な点だ。「ライフ・シフト』では、おカネに換算できない見えない資産の重要性を強調しているが、その基本的な考え方は、働く人がより健康で活力的で、生産的になれるよう変化を助けていくこと。
これが新しい時代のあるべき姿だ。日本企業は人材育成にかける費用を減らしてきているが、これは間違っている。

生涯学習がこれからのカギになるからだ。高齢化とテクノロジーの進化という二つのトレンドによって、かつてない変化が起きている。

人生を通じて学び続ける以外に道はない。日本企業は高水準の利益を上げており、余裕はある。人材育成予算が縮小しているのは、非正規雇用が増えたことの裏返しであり、こうしたやり方で競争力を高めようとするのは問題だ。

極端に少ない起業問題を放置する日本

日本は起業する人の割合がものすごく低い。現代の経済において、イノベーションはとても重要だ。しかし、起業を後押しするという点で、日本はほとんど何もしていない。

日本の若者は大企業志向が強い。だが、ほかの国、たとえば英国のロンドン・ビジネススクールや米国のハーバード大学、スタンフォード大学の最も條秀な学生は起業する。

会社を立ち上げて、それを2000万ドル(約22億円)といった大金で売却できるのに、なぜ大企業に行く必要があるのか、と。日本の大企業に大きな責任があると思う。経団連を構成する大企業集団が日本経済を支配
し、起業やイノベーションの可能性を摘み取っているのだ。

年金制度はどうなるでしょうか。たとえば70歳まで働き、年金支給開始年齢を遅らせる必要があると提言されていますが。長く働くことをネガテイプにとらえるのは間述いだ。

労働組合などは文句を言うだろうが、これは新しいチャンスだ。70代まで働くことになれば、いろんな選択肢が出てくる。50年間休みなしに働き親けるのではなく、たとえば51歳になったら、自らに再び磨きをかけるために長期休職して、世界を旅するとか、博士号を取るとか、AI(人工知能)について学ぶようなことも考えられる

多くの人が長く働きたいと思っているのは、経済的な理由からだけではない。人生100年時代になって、定年後が40年も続くと考えたらゾッとするからだ。その意味で、日本だけでなく、世界中の企業が高齢者雇用に対する考え方を改める必要がある。

高齢者はこれまで以上に健康だし、新しいことを学ぶ力もある。変化を起こすのに20年もかかっていたら手遅れだ。60歳を超えて働くことについて、私たちベビープーマーが世の中の考え方を変えていかなければならない。


単に年齢が上がったから昇給するという仕組みは、とにかくやめなくてはならない。報酬は仕事の内容やスキルで決めるべき。年功序列の給与体系が高齢者雇用を妨げる一因になっているからだ。これは年功序列に依存してきた日本の会社にとっては、極めて難しい課題になるだろう。

だが、いくつかの企業はすでに大変革を始めている。必要に迫られた結果、変化が起きているのだ。問題は、日本の危機意識がさほど深刻ではないことです。だからこそ、政府は「人生100年時代構想会議」を立ち上げ、問題を議論しているのでは?何が危機なのかを国民に示していく必要があるから。

今後、人生100年時代がやってくる。これが現実であり、対応策が求められている。このようなことに正面から取り組んでいる首相を、日本以外の国で私は見たことがない。「75歳まで働く」といったようなことを言えば、選挙で不利になるだろう。他国では、こうしたことを首相や政府が表立って口にするようなことは考えにくい。

日本が世界で最初に問題に直面し、向き合わざるをえなくなっているということだろう。日本政府は、未来に向けたストーリーを提示している、世界でも珍しい政府だ。では、日本に必要なストーリーとは何でしょうか?

政府には、テクノロジーが果たす役割についてストーリーが変わるのを後押ししてもらいたい。世界では、ロポットやAIが失業をもたらすという説があたかも事実であるかのように語られているが、ナンセンス極まりない。

というのは、自動化が進んだ国ほど失業率が低いからで、日本もそうした国の一っだ。

ロボットとAIで高齢化を乗り越えよ

むしろ問うべきは、テクノロジーをどう生産性向上につなげていくかだろう。そこには、年を取ってからも生産的に働くにはどうしたらいいのかといったことも含まれる。高齢化の悪夢は、認知症など脳に際害が出てくることだが、AIによって問題に対処できるようになるかもしれない。

体を使った作業をロボットが助けてくれるのは言うまでもない。私たちの生活とテクノロジーを融合する、すばらしいチャンスがそこにはある。もう一っ日本に必要なのは、女性の役割に関するストーリーだ。

日本の家族のあり方は企業によってそうとう歪められている。企業は、自らが家族にどんな影響を及ぽしているのか、社会の中でどんな役割を果たしているのか。女性はもっと生産的になれるし、これによって日本の未来の大部分が決まってくる。

日本は100年時代の先駆者になれますか?もちろん。そうならなければならない。世界において、日本は二つの点で主役的な役割を果たすことができる。まず、世界のどこよりも急速に高齢化が進んでいるとい、2面性がある。

世界は日本がこれにどう対処していくかに注目しており、日本はその経験を教えられる。次に、人と機械の関係。他国に比べると、ロポットやAIに対する日本人の信頼は厚い。

したがって日本は、生産性向上や人生をより満たされたものにしていくうえで、ロボットやAIがどう役立つかを示すことができる。2020年には東京五
輪がある。オリンビックはとてもヒューマンなイベントだ。ロボットやAIが人間にとってポジティプなものであることを示す、とてもよい機会になるだろう。

デジタル化のレースに各国が走りだしている

政府の未来投資会議の民間議員として、日本の成長戦略づくりへ積極的に関与しているのが日立製作所の中西宏明会長。

日本経済団体連合会の次期会長の最有力候補でもある中西会長に、日本の経済界や企業のあり方などを聞いた。

経団連次期会長に内定という新聞報道が続きました。それは経団連が決めることで、私が話すことではない。日立は財界活動に積極的ではないイメージがあります。方針が変わったのでしょうか。

いわゆる財界というコミュニティに対し一定の距離を保つのは日立の文化の―つで、そこは変わっていない。ただ、日本で重要な産業である電機の代表選手が少なくなった。だから、そういう話もいろいろ出てくるのだろう。

日本経済が成長していくにはIOT(モノのインターネット)やAI(人工知能)といった技術革新への対応が求められます。

経団連がそうした新しい技術、産業構造の転換に前向きに取り組んできたという印象は薄い。そのことへの危機感を持っていると。

強烈に持っている。そこが変わらないと日本はダメだろう。だから、ご自身で変える?

まず、わが社自身が変わらないといけない。「変わろう」と言って引っ張ってきて、着実に手応えはある。だが本当に変わるにはまだまだで、悪戦苦闘している。

政府にもう少し異議を唱えてもいい

「2020年の東京五輪以降の経済について、国民の間には不透明感があります。五輪の経済効果は反動減を心配するほど大きくない。それよりも、今直面しているのはデジタル化というものすごく大きな産業構造の変化だ。各国が一斉にその変化に気づいてレースが始まっている。そこで日本が勝てるかどうか。」

日本は勝てますか。私は一貫して「日本は遅れている」という前提に立つな、と言っている。日本政府も前向きに動きだしている。仮想空問と現実空間
を高度に融合させた「ソサエティ5.o」を最初に提案したときは大変だった。「それは何だ、新橋のおじさんたちに話してわかるのか」と政治家から言われた。

どうやって説得しましたか。説得ではなく、実感してもらうことが大事だ。デジタル化は技術の話ではなく、社会の仕組みが根本から変わることだという実感を持ってもらえれば、政治家も役所も動きだす。

もちろん、まだまだボトルネックはある。たとえば、官民データ活用推進基本法という法律ができて、IOTで集めたデータを活用して社会を効率化することに前向きに取り組もうという閣議決定もなされた。そのフォローアップ会議では、各省庁が自分のところでやれることを発表している。

でも、それではダメで、各省庁が横断的にデータを共有できる仕組みを作らないといけない。中西会長は安倍晋三首相を囲む財界人の会合、「四季の会」の一員です。首相とそうした問題意識は共有しているのでしょうか。

首相はデジタル化についても理解していますよ。未米投資会議ではこんな話をしてくれた。G7(先進7カ国首脳会議) で各国の首脳が「デジタル化が大変だ。ロポティクスやAIで職がなくなる」と騒ぐので、首相が「デジタル化で本当に社会がよくなる方向へ持っていくと国民も変わる。日本はそういうふうに向かっている」と話したら、みんなが同意してくれた。

会議の終わり頃には、他国の首脳からもソサエティ5.0という言葉が出てくるようになった、と。首相はご自分の言葉で語る人。

G7で事務局の用意した原稿どおりにしゃべるとみんなほかのことをやりだすが、自分の言莱でしゃべると会話が進む、とおっしゃっている。そのとおりだと思う。榊原定征・経団連会長は「( 政府と)徹底的に手をつなぐ」という言葉を実践してきました。しかし、官製春闘や3000億円の教育無償化財源の拠出など、政府の言いなりという批判もあります。

もうちょっと異議を唱えてもいいのではと思う。ただ、内部留保や設備投資をめぐる政権からの注文については「それは違いますよ」と榊原さんも私たちも説明している。(国内に)コモディティ(化した製品)を生産するための工場を建てろというような要求は筋違いですよ、という話だ。

榊原さんが会長になったのは、経団連と政治の関係が最悪なときだった。経団連の事務局も政治と対話ができない雰囲気で、経団連の存在意義に疑問が出ていた。そこから回復させるのに3年かかったということだ。

今後、政府との関係はより正常化しますか。安倍政権は発足からもう5年だから、対話はちゃんとできるようになっている。ソサエティ5.oも、経団連の中でものすごく議論したうえでできた話だ。

内閣が決めたことを経団連が追認しているという構図ではない。2018年4月には黒田東彦・日本銀行総裁の任期が終了します。日銀の政策についてどのように考えていますか。

これは心配だ。また、安倍政権でもいちばんダメなのは財政再建であり、消費税。この問題については(政府に)強烈に言っている。どう考えても、このままでは日本の財政はいつか破綻する。

それを金融緩和で支えている状況です。私はマクロでは日本経済に楽観的だが、敗退する企業がずいぶん出てくるとは思う。それはしょうがない。むしろ負けた企業にはきちんと退出してもらう必要がある。

グローバル企業にとって国内市場のウエートはどんどん小さくなっていきます。国内の政策形成への関与は時間の無駄では。それは時々感じる。政府の責任範囲は日本だけだが、私たちは国を考えていたら商売にならない。だけど、システム輸出のような案件や、「一帯一路」(中国と欧州を陸路と海路で結ぶ巨大経済圏構想)への対応は民間だけで考えても仕方がない。

しかし、一帯一路の土俵で中国勢とコストで勝負するのは厳しいのではありませんか。そう思う。彼らとは、設備投資や減価償却に関する会計の発想か
らして異なるから。日本政府はインフラ輸出にカを入れています。それに乗ると、経済合理性での経営判断ができなくなるおそれはないですか。

私たちは、厳密に自分たちの損得勘定でやる。そこはビジネスだ。政府が代わって経営してくれるわけではないから。

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