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「好調」世界経済の見えないリスク

(ニューズウィーク日本版 1月16日)

2018年の世界経済見通しは一見良好に見えるがトランプという時限爆弾や中国の権力集中、EU分断など不安定要因が浮上している
ジョセフ.スティグリッツ(コロンピア大学教授、ノーベル賞経済学者)

私は1年前、2017年の最大の特徴は不確実性だろうと予測した。特に大きな波乱要因として、ドナルド・トランプ米大統領の誕生とイギリスのEUからの離脱(プレグジット)を挙げた。

この時点で唯一確実なのは不確実性だけにみえた。未来はひどく厄介なものになる可能性があった。結果的に17年は特に素晴らしい年ではなかったが、大方の懸念よりはずっとましだった。

トランプは予想どおり、大言壮語と不規則な言動を述発した。仮にツイッターのつぶやきだけしか見ていない人がいたとすれば、アメリカは貿易戦争と核戦争の間を揺れ動いていると思ったかもしれない。


トランプはスウェーデン、オーストラリア、EUを次々と侮辱した後、国内ではネオナチを擁護した。金満ぞろいの閣僚たちは、利益相反、無能、道徳的堕落のレベルを互いに競い合った。

規制面では環境分野を筆頭に、気掛かりな後退がいくつかあった。ヘイトがらみの言動は言わずもがなだ。だが今のところ、大統領の醜悪な物言いと実際に成し遂げた結果の間には(幸運にも)大きなギャップが存在する。世界経済にとって最も重要なのは、貿易戦争が起きなかったことだ。

米ドルとメキシコ・ペソの為替レートが参考指標になるとすれば、NAFTA(北米自由貿易協定)の将米に対する懸念は交渉は停滞したもののかなり沈静化した。ただし、ジェットコースターを思わせるトランプ劇場は
終わらない。18年は、トランプが世界経済秩序に投げ込んだ手榴弾がついに爆発する可能性もある。

一部には、米株式市場の史上最高値更新をトランプによる経済的奇跡の証拠と指摘する向きもある。私自身は、株価の新底値は大不況からの10年に及ぷ回復がようやく定着した証拠という面があると考えている。

あらゆる景気後退は(最も大きな景気の落ち込みでさえ)いずれ終わる。トランプは幸運にも、前任者の仕事の恩恵を享受する絶好のタイミングで大統領に就任したのだ。

だが私は同時に、好調な株価は減税への期待感と、世界経済が07年の金融危機前のレベルに復活すればウォール街に再びマネーが流れ込むという希望
的観測が生み出した市場参加者の近視眼の証拠でもあると考えている。彼らは続く08年に起きたここ75年で最悪の不況を無視している。

政府債務と、以前の超富裕層向け減税が生み出した格差の拡大にも目を向けようとしない。市場はトランプの保護主義がもたらす反グローバル化のリスクを過小評価している。さらに政府債務を膨らませるトランプ減税が実現した場合、FRB (米連邦準備理事会)の利下げが市場の調整(株価下落など)の引き金になる事態も想定していない。

言い換えれば、市場は再び短期的思考とむき出しの貪欲に流れる傾向を示している。アメリカ経済の長期的見通しにとって好ましい前兆ではない。そ
して18年は17年よりも良い年になる可能性が高いものの、地平線上には大きなリスクが浮上している。

短期的成功に酔ってはならぬ

状況はヨーロッパも同様だ。イギリスのEU離脱決定は、通貨ポンドの下落が大きくものをいった結果、プレグジット反対派が予想したほどの経済的影評はなかった。それでも、テリーザ・メイ首相の政権がEU離脱を軟着陸させる方法について、あるいはプレグジット後の対EU関係についても明確なビジョンを持っていないことは、ますます明らかになってきた。

ヨーロッパには、さらに2つの潜在的リスクがある。金利が(必然的に)正常な水準に戻った場合、イタリアなどの重債務国は危機を回避するのが困難になる。アメリカの金利が上昇してもユーロ圏が記録的な低金利を維持できるかどうかは、はなはだ疑問だ。

ハンガリーとポーランドは、ヨーロッパの在そのものを脅かす脅威を象徴している。EUは単なる便宜的な経済協定ではない。基本的な民主主義の価値観を信奉する国々の同盟だ。ハンガリーとポーランドは今、その価値観自体を傷つけている。このような政治的試練が18年の経済状況に及ぽす影響は小さいかもしれないが、長期的リスクは明らかに巨大なものだ。

中国の習近平国家主席の一帯一路構想がユーラシア大陸の経済パワーパランスを変えようとしている。新しい経済秩序の下では中国が中心的地位を占め、地域全体を成長に導く重要な経済的刺激を提供することになる。だが、今の中国は輸出主導型の経済成長から内儒主導の成長への、製造業主体の経済からサービス業主体の経済への、村型社会から都市型社会への複雑な移行過程にあり、多くの難題に直面せざるを得ない。

人口は急速に高齢化が進み、経済成長の勢いは明らかに鈍化し、貧富の格差はアメリカとほぽ同レベルの深刻さだという指摘もある。そして環境悪化が人々の健康にもたらす脅威は拡大し続けている。過去40年間の中国の未曽有の経済的成功は、共産党と政府内部の広範な協調や合意形成が改革を下支えするシステムの上に築かれてきた面がある。

習への権力集中は、大規模化・複雑化した経済の中でうまく機能するのか。中央集権型の統制システムは、中国ほど巨大で複雑な金融市場とは相いれない。ただし、全ては基本的に長期のリスクだ。

18年の中国はわずかに経済成長が鈍化するものの、独自のやり方で何とか乗り切ると考えていいだろう。以上をまとめると、先進国経済にとって08年以降の景気後退が遠い過去に変わるなかで、18年の世界経済の見通しは17年よりもやや良好に見える。各国政府が緊縮財政転換することで、極端な金融政策の必要性は低下するだろう。だが、中国の権力集中とユーロ圏の遅々として進まない改革、そして何より国際的な法の支配に対するトランプの軽蔑とアメリカの指導的立場の否定、民主主義の価値に与える損害は、より深刻なリスクを突き付けている。

実際、これらの問題は世界経済を傷つける恐れがあるだけではない。最近まで必然的な動きに見えていた世界的な民主化の拡大を遅らせかねない。短期的成功に酔って自己満足に陥らないように注窯すべきだ。


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